人生に疲れた時に読みたい昔話「森の小さな茶屋」

昔々、ある深い森の奥に、小さな茶屋がありました。
その茶屋は、人々が疲れた心を癒すためだけに存在しているような場所でした。

ある日、旅人の青年が森を歩いていると、突然の雨に降られて立ちすくみました。
木々のざわめきと雨音に心を乱されながら、彼はふと、道端にぽつんと建つ茶屋を見つけます。

扉を開けると、そこには年老いた店主が一人。
灰色の髪に、やさしい目。薄暗い店内には、香ばしいお茶の匂いと、静かな暖かさが漂っていました。

「濡れてしまったようだな。どうぞ、座っていきなさい」
店主の声は、雨に打たれた心をそっと抱きしめるようでした。

青年は湯気の立つ茶を一口すすると、体だけでなく、心の奥までじんわりと温まるのを感じました。
そして、ぽつりぽつりと今日までのことを語り始めます。

「仕事も、人間関係も、何もかも上手くいかなくて……もう、疲れました」
声は震え、目には涙がにじんでいました。

店主は静かに頷き、青年の話を黙って聞いてくれました。
やがて、店主は小さな壺からひとつの葉を取り出しました。

「この葉はね、森の中で一番古い木から落ちたものだよ」
「枯れた葉か……?」
青年は首をかしげました。

「枯れているように見えるけれど、地面に落ちた葉はやがて土になり、木の栄養になる。だから、この葉はまだ生きているんだ」
店主の声は静かですが、力強く、青年の胸に響きました。

青年はしばらく葉を眺めていました。
枯れたように見えるものにも、まだ意味がある。
自分の今の状態も、何かに変わるのかもしれない。

雨はやみ、窓の外に薄日が差してきました。
青年はゆっくり立ち上がり、店主にお礼を言いました。

「少しだけ、元気が出ました。ありがとうございます」

店主はにっこり笑い、ただ頷くだけ。
その茶屋は、森の奥にひっそりと佇み、また次の疲れた旅人を待っていました。